阿久津愼太郎さん(七五三掛担)の男性アイドル論がすごいので、「二・五次元」特集のユリイカ読んでください。
目次にジャニーズ、宝塚、歌舞伎とあり、私得過ぎる…と思ってひと月くらい前に購入した『ユリイカ総特集「二・五次元」』。読んでみたら、二・五次元舞台作ってる人・演じてる人・観てる人がみんな熱くて、今二・五次元舞台の現場に行ってみたい気持ちでいっぱい。原作好きなので、ハイキューは絶対行きたいけど、チケットとれるのかな…。
この特集の中で個人的にダントツ面白かったのが、阿久津愼太郎さんと少年アヤちゃんの対談。ジャニーズについて考える上で刺さりまくる内容。もう(男性)アイドル好きな人には全員読んでほしい!配って回りたい!ってくらい。
阿久津くんは、自身がD-BOYSとしてアイドル俳優的に活躍されつつ、DISH//など男性グループの現場にも通うアイドルオタク。阿久津くんのことは去年のユリイカの総特集「イケメン・スタディーズ」のインタビューで初めてちゃんと知ったのだけど、その時からすでに漫画やBLについて熱い持論を展開していて、「初めて見た魔女っ子が『カードキャプターさくら』だったのは、いま考えてもいまの僕のアイデンティティの一部になっていますね。」とか言ってて面白い子だなあと思った記憶がある。あらためて読み返してみると、去年の時点で「百円のものを千人に売る一般受けの人と一万円のものを十人に売るヲタク向けの人がいて(略)僕自身はヲタク向けの部類ですかね(笑)。」とかなり濃い話してた。
阿久津くんは、自分を取り巻く状況を現在進行形ではっきり言語化できるすごい人だと思う。状況をわかってる子は他にもいるかもしれないけど、言葉にできる知性と、言葉にする責任を引き受ける勇気がすごい。今19歳。彼は同じインタビューで「僕のなかで男の子のいちばんいいときは16歳から18歳の下顎が発達する前」と言っていて、新しいイケメン像の男性アイドルをプロデュースしたいとのこと。調べてみたら、昔ジャニーズ事務所に所属して2008年の「SUMMARY」に出てたんだね!今でもジャニーズ好きらしい!七五三掛担らしいよ!確かにシメちゃん下顎発達してないよね!ちょうどいいまとめあったから貼っとく!
前置きが長くてすみません。阿久津くんがすばらしい人材すぎて。さて、ここからが本題。今回の対談、ちょっとこれはもう尊敬の域です。
タイトルは「欲望と自己愛についての対話篇―アイドル・イケメン・マイノリティ」。
この対談の何がよいって、阿久津くんのアイドルとしての自意識と、アイドルオタクである自意識がぐるぐるしているところ。わたしがアイドルについて感じてたことを、アイドル本人がバンバン言ってくれてる。しかも「腋毛は萌えなんですけど、すね毛は萎え」なぜなら「腋はそんなに拝めるものじゃないから出てきたときはちゃんと見ろみたいな英才教育が影響してるのかもしれない」みたいなガチオタ目線も交じってくるから、あっち側だしこっち側だしで、読みどころが多すぎる。
対談の副題が「アイドル・イケメン・マイノリティ」っていうのもポイントだと思う。特に気になったところを紹介してみる。
- アイドルについて
好きな男性アイドルに少年性を求めるのはなぜかという質問に対して、阿久津くんは以下のように答えている。
(※この部分はニュアンスがとても大切だと思うで長めに引用させていただきます。)
性的なこともなにも知らないうちからこの業界に飛び込んで、単に若くていいねというよりも、純粋だね、そのままでいてねみたいな言葉をかけられてきて、若さは強さというか、ずっと子供でいなきゃいけないと思っていたんですよ。そうは言っても身長は伸びつづけるし、いつかの冬に自分の肩幅が広がっていることに気がつき、大人たちが求めてくれていたものと違う方向に走っていることを自覚したときにそれを他人に投影するようになったんです。(p.204)
まずね、この部分読んでちょっと泣いた。SexyZoneファンの私は、松島聡くんとマリウス葉くんの顔が思い浮かんでしまった。2011年に13歳でデビューした松島くん。松島くんが、昨年メンバーに本音を伝えるという企画で「中3で声変わりするまでは、歌うことがすごく好きだったの。5人の中でいちばん高い声が出て、それが俺にとって唯一の取り柄だと思ってた。でもそれすら失って…”これ”ってものが何もない自分がイヤでイヤでしかたなかったよ。」*1と言ってたのを思い出した。11歳でデビューしたマリウスくんも、自分の身長が伸びることに戸惑っているように見える時期があった。
身長が伸びたり、声変わりをしたり、肩幅が広くなったりすることって、多くの男性にとって喜ばしいことのはずだ。でも阿久津くん自身、いまでも歳をとることに抵抗があるようで、「下降」という表現をしている。誰かにひどい言葉で「大きくなるな」って言われたわけではなくて、善意の「純粋だね」「かわいいね」って言葉にこそ縛られるのだ。若くしてデビューしたアイドルは、成長期にはいつまでも「小さくてかわいい」ままでいなくてはいけないというプレッシャーと闘い、成長したあとも「小さくてかわいい」昔の自分と闘いつづけなきゃいけない。
個人的に、松島くんとマリウスくんがメインで出演した昨年の「ガムシャラSexy夏祭り」は2014年で最も心が震えた現場だったし、成長した二人の姿は本当に本当に素晴らしかったと思うけど、そういうファンの声だけでは埋められないものもあるのだろうと思う。
先日読んだ『ダ・ヴィンチ』の朝井リョウさん×高橋みなみさんの『武道館』刊行対談を思い出した。高橋みなみさんは「善意がプレッシャーになっていく」こともあるのだと言っていた。「がんばれ」「かわいい」「もっと見たい」という善意の応援によってアイドルが壊れることもあり得るのだと。西武ドームで響き続けるアンコールの中、過呼吸になる前田敦子さんのシーン(映画「DOCUMENTARY of AKB」)と、高橋さんの言葉を重ねるともう何も反論できないという気がする。阿久津くんの話は、この高橋さんの言葉と松島くんやマリウスくんの存在を地続きにするものだと思う。アイドルは男女問わず、日々ファンや周りの大人たちの「こうあってほしい」という欲望にさらされていて、それが100%「善意」であっても、アイドル自身がそれによって傷つく可能性はなくならないし、彼・彼女の価値観に影響を与え続けるかもしれない。アイドルを応援することがアイドルを傷つけるなんて、普段コンサートでアンコールって叫んだり、少クラ見ながらSNSで可愛い可愛いつぶやいているときには想像もしない。じゃあオタクはアイドルのためにどうすればよいんだよって頭抱える。朝井さんの小説『武道館』は、読んでる途中でジャニオタの自分の身に刺さりすぎて、読むのがしんどくなって今中断している。でも、今後もアイドルを応援し続けたいから、最後まで読んで答えのかけらを見つけられたらいいなと期待している。
- イケメンー(マイナス)0.5=アイドル=マイノリティ?
阿久津君は、二・五次元舞台のよいところとして「最初から男性が性の対象としてみられることをその男性自身や社会が許している」ということを挙げている。性の対象として見られ慣れていない俳優が、「キャラクター」を一枚のせることで、ファンも応援しやすくなるし、俳優もアイドルとして振る舞いやすくなると。少年アヤちゃんの「彼らにとって0.5はコスプレなんだ。それによって、人間の男であるというしがらみから解き放たれる」のだという返答も含め、首がもげそうなほどうなずいた。「男尊女卑」の芸能界の中で「女性が男性を性的にまなざした瞬間、女性の方が上にたてる」のだという阿久津くんの発言にもしびれた。先日KAT-TUNの東京ドームコンサートの衣装が「刀剣乱舞」のキャラクターみたいだと話題になっていたけど、コンサートなどのアイドルっぽい空間のジャニーズって、ド派手な衣装と「ジャニーズ」っていう肩書で三次元-0.5している気がする。おかげで少なくとも私は男性をまなざしやすくなってるなと感じる。
女性アイドルが男性アイドルに比べてしんどそうなところってやっぱり性に関する部分が大きくて、それは女性が結婚出産もろもろで仕事を続けづらかったり、女性向けに比べて男性向けの性産業が圧倒的に発達していたりする現実社会をそのまま反映していると思う。だから女性アイドルのしんどさって、社会の中でアイドルじゃない一般女性が抱えるしんどさとリンクしているんじゃないかと思う。
一方で男性アイドルのしんどさって、現実社会とあんまりリンクしていないのではないか。男性アイドルとして求められることと、社会の中で一人の男として求められることが違うからこそ、女性アイドルよりしんどい瞬間があるんじゃないかと思う。男性アイドルってマイノリティなのだ。(もちろん男性アイドルと女性アイドルどっちがしんどいかとかそういう話ではなくて。)
だから、阿久津くんのように言葉を持っている人が、男性アイドルのしんどさを身をもって知っている人が、アイドルをプロデュースする側にも入って、これからも当事者として言葉を発信してくれることが男性アイドル自身にとってもファンにとっても救いになるとよいなという願いを込めてこのエントリを書きました。
ということで、こんな濃い話が9ページも続くので、ユリイカぜひみなさん読んでください!
阿久津くん、今のBLとかアイドル語りのフェーズにめちゃめちゃマッチしてるから、今後こういうお仕事増えるのでは。というかぜひ増やしてほしい。
事務所関係とかいろいろ難しいと思うけど、「若い子たちに歳をとってもいいんだよと代わりに言う役になれたらなともいまは思っています」という阿久津くんにはぜひ、若手ジャニーズと対談してほしい。個人的にコンサートのレポ読んで、メタ視点が素晴らしいジャニーズWESTさんあたりとお話してほしいです。あとは女性アイドルとの対談もぜひ読みたいです。ユリイカさまダ、ヴィンチさま、実現よろしくお願いします。
久しぶりの更新でちょっと暗い話もしてしまったので、次は普通に舞台の感想とかアップしたいなー。
ユリイカ 2014年9月 臨時増刊号 総特集◎イケメン・スタディーズ
- 作者: 小越勇輝,鈴木拡樹,高杉真宙,小野賢章,坂口健太郎,國島直希,飯伏幸太,阿久津愼太郎,千葉雅也,星野太,柴田英里
- 出版社/メーカー: 青土社
- 発売日: 2014/07/17
- メディア: ムック
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